【読書感想文】『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆著|「全身全霊をやめる」という言葉が不妊治療中の私を救った理由

読書感想文

私には本読みとして信用している方が2人います。
1人はピース・又吉直樹さん。

「本はどの本でもおもしろいところがある」
「もし本を読んでおもしろく感じなかったら、自分がまだその本を読む時期ではなかった」
という考えの方で、素敵な読書観だと思います。

もう1人が、書評家の三宅香帆さんです。

私は、書評の良し悪しはわかりませんが、この方が古典も新刊も幅広く読み、本を愛しているオタクということはわかります。

そんな三宅さんが2024年に出版し、2025年新書大賞を受賞した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、日本人がどうやって働きながら読書をして読めなくなっていったかの変遷をたどるものです。
そして、映画『花束みたいな恋をした』の登場人物・「麦」くんに向けて書いたと仰っています。

菅田将暉演じる麦くんは、小説や漫画や映像が好きでイラストレーターを目指している青年です。
それが生活のためにサラリーマンになり、大好きだったはずのものが読めなくなり、深夜の職場で虚ろにパズドラをするような大人になっていきます。

どうして働いていると好きな本が読めなくなっていくのだろう。
仕事で忙しくでも本を読む時間がまったくないわけではないのに。

そもそも、明治時代から日本人はどうやって、何を目的に、本を読んできたのか。
そういった視点で、各時代のベストセラーを手掛かりに、読書と労働が両立しづらい理由を考察しています。

自己啓発書、教養を授ける本、書斎に並べるだけの全集、通勤本としての司馬遼太郎などなど…。
こういった本がなぜここまで売れた?とわからなかったものを、「労働」の切り口で分解していきます。

最終的に三宅さんは「『全身全霊』をやめませんか」という章題で、この本をしめます。
仕事でも趣味でも、全身全霊で取り組むことや、それを称賛することをやめませんかと提示するのです。

全身ではなく半身で働く。
それが可能な社会にする。
働きながら本を読める社会に。
麦くんが働きながらイラストを描いたり本を読んだりするような社会に。

この結論は労働と読書の両立について語られたことですが、不妊治療にも言えることかもしれないと思いました。

個人的に治療は究極の理不尽だと思います。
頑張ったことが結果に結び付かないことはよくありますし、不妊原因がはっきりわからないこともよくあることです。
原因がわかってもそれが解決されないことだってあります。
それだけに、治療にだけ100%の「全身全霊」を傾けてしまいがちです。
心のゆとりがある方が治療にも良いとわかっていても、そうなってしまうのです。
治療をせずに子どもを授かれる人、子どもを授かることに特にハードルを感じていない人が、羨ましくてたまらなくなってしまうときだってあります。

だからこそ、「全身全霊」ではなく「半身」でいる必要があるのかもしれません。
渇望するものがあるからこそ、ふっと息を吸って吐くような瞬間がきっと必要で、そういう気を抜いてしまった自分を許すことが必要なのだと思います。

ひとりで追い詰められたような気もちになっていた頃の自分に、そんな風に伝えたいです。

kinndle版/Audible版もあります↓

コメント

タイトルとURLをコピーしました